つぐみ「この物語は前編中編後編を読んでから読まないとわからないわよ〜。ちゃんと全部読んでね〜。あら、ダーリンちょっと待ってて♪今行くわ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・!・・・・!!・・・・・・」

 

夢から覚めたまどろみの中、彼方は誰かの声を聞いた。

 

どうやら、叫んでいるらしい、と言う事は分かった。さらに眼が覚めてくるとその声が自分の愛しい人の声であることが分かった。

 

「・・・ちゃん!・・・・・かな・・・・!彼方ちゃん!!」

 

ここにきて、ようやく自分が起こされていることに気付き、むっくりと体を起こした。

 

「ん・・・・ふぁぁ・・・。どうした澄乃。何かあったか?」

 

「彼方ちゃん!大変だよ!天気が悪くなって外が・・・・!」

 

ピシャァァン・・・・ゴロゴロゴロゴロ!!!!

 

雷の音が澄乃の声をさえぎる。それを聞いて一気に目が覚めた彼方はガラリと障子を開ける。

 

雨雲雷雲、まるでそれらが全て渦巻いているような天気。すぐ先も見えないほどの乱雨が外を支配していた。

 

「こんなんじゃ、儀式の準備も・・・・・!」

 

そこまで聞いて、彼方は既に部屋から走り出した。ゴミ箱を蹴飛ばしたのも気にせず、後ろにいるであろう澄乃に叫ぶ。

 

「先に行くぞ!!後で着いて来い!!」

 

玄関の外に出て、ものすごい乱雨に打たれながらも、彼方は走る。

 

(やっと、やっと救えると思ったのに・・・・・!)

 

そこで気付いた。この感覚は、なにか彼方の中に覚えがあると。

 

 

 

そう、

 

これはたしかに

 

彼方が澄乃のためにお百度参りした時の感覚にそっくりだった。

 

 

 

「・・・!ふっざけんなぁぁ!!」

 

それに気付いた彼方は怒りのあまり咆哮を放った。

 

「なんでだ!?彼女らが何をしたっていうんだ!!」

 

スピードを、上げる。上げる。上げる。

 

「彼女達には幸せになる義務があるんだ!!」

 

乱雨が棘のように刺さるのを、気にせずに走り続ける。

 

「いっぱい悲しんだ、そのぶんだけ幸せにならなきゃいけないんだ!!」

 

前も見えずにつまずいて転んでも走り続ける。

 

「ぐっ・・!これだけは・・・・あの子達だけは邪魔はさせてたまるかぁぁぁ!!」

 

既にスピードの上げすぎで体の感覚も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名残雪、そして初雪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂を上りきり、ようやく龍神湖のほとりに着いた時、彼方が見たものは、

 

ぼろきれのように崩れ去った儀式の道具と、同じように足が崩れ去った芽衣子だった。

 

「・・・・・・芽衣子・・・・・・・」

 

彼方の声に振り向いた芽衣子の顔は儀式の道具と一緒にコワレたように生気が抜けていた。

 

「彼方さん・・・・・・」

 

怒涛の雨の中、二人の間だけは静かになる。そして、芽衣子がそれを破り一言

 

「ごめんなさい・・・・・」

 

そう、痛々しげに答えた。

 

「・・・っなんでお前が謝るんだよ・・・!やめろ、お前のせいじゃないんだ・・・・」

 

すべては、踏み外す事のゆるさない運命。

 

夢見る事をあざ笑う現実。

 

その事実にくじけた少女はいつもの覇気など全くなかった。

 

「私が・・・・罪を負った私がこんなことをしたから・・・・みんなは・・・・・っ」

 

「違う、芽衣子、お前のせいじゃない。誰もお前を責めやしない。礼を言いたいくらいなんだ」

 

「・・・・っく・・・どうして・・・!・・・私はただ取り戻したいだけなのに・・・・!」

 

雨と涙が入り混じった雫がぼろぼろと落ち続ける。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・彼方ちゃん!芽衣子!」

 

息を切らして澄乃がやって来た。いつもの白い服が泥と雨で染まっている。

 

「澄乃・・・・。すまない・・・・私のせいで・・・・」

 

「芽衣子・・・・。彼方ちゃん・・・・」

 

崩れ去った神具たちを見て、澄乃はひざを崩した。

 

「もう・・・無理なの?・・・みんなを救えないの?」

 

「・・・・・・・・」

 

沈黙で肯定する芽衣子。

 

うぐっえぐっと涙ぐむ澄乃。

 

彼方は動けなかった。

 

救えなかったのだと。

 

彼方は自分を救ってくれた彼女達を救うことができなかったのだと。

 

彼女達のおかげで生きている自分がが、その彼女達のために何もできなかった。

 

後悔を抱き、放心して動けなかった彼方達を動かしたのは

 

 

 

「ママ・・・・・パパ・・・・?」

 

 

 

そんな、聞き覚えのある愛しき娘の声だった。

 

「え・・・?」

 

「桜・・・ちゃん?」

 

「パパ、ママ、見つけた〜。こんな所で何してるのぉ?」

 

「ばっ、ばか、桜!こんなトコにどうやって・・・・!!」

 

その疑問は、彼方が桜を見た瞬間に解決した。

 

桜は、いつも道理の姿だった。彼女は、いつもの晴れ模様の時と同じような姿だった。

 

そう、桜は雨の一滴も浴びてなく、そよ風に彼女の髪をなびかせていた。

 

!!・・・嵐がやんでる・・・・?」

 

澄乃もその異常に気付き空を見上げた。

 

龍神湖の真上には雲がなく、丸い満月だけが存在していた。

 

それはまるで揺り加護。彼女を守るために存在するナニカだ。

 

「桜ちゃん、どうやってここへ・・・・」

 

「あっ、芽衣子おねえちゃんだ!うん!あのね、真っ白い大きな鹿さんがこっちだよって案内してくれたの!」

 

その答えで、ここに桜がいる事が偶然ではない事に彼方は気付いた。

 

(白桜・・・・・・)

 

一人の罪を負いし男が今役目を果たしたと、彼方にはわかった。

 

「ママぁ、パパぁ、何で泣いてるのぉ?」

 

桜は今だ泣いている彼方達に近寄り心配そうな顔をして覗き込む。

 

「悲しかったのぉ?それとも桜悪い事したからぁ?」

 

桜は二人の顔を見ながら罰の悪そうな顔をした。

 

「・・・・うぐっ・・・・ひぐっ・・・!」

 

澄乃は泣きやむ事ができずに、ただただ桜の顔を見つめる。そんな姿に、桜は更に悲痛な顔をした。

 

「パパぁ、ママぁ、どうしたのぉ?」

 

「泣かないで欲しいのぉ。桜、いい子にしてるから、泣かないで欲しいのぉ・・・・」

(泣かないで欲しいのじゃ。わらわはいい子にしてるから、泣かないで欲しいのじゃ・・・)

 

「さく・・・ら?」

 

彼方は、桜の姿にもう一人の愛娘の姿が重なって見えた。

 

それは、あの悲しい別れの幻想。桜の花を名乗る雪の精の面影だった。

 

「・・・違う、違うよ桜花・・・桜・・・・。お前達は何も悪くないんだ・・・」

 

そういって、彼方は桜を抱き寄せる。

 

「・・・・パパぁ?」

 

「俺が・・・・俺が力不足だったから・・・・皆を・・・皆が・・・」

 

「彼方ちゃん・・・・・」

 

彼方と澄乃はまた眼に涙をためている。それを見た桜は

 

「・・・・ちがうよぉ、パパ、ママ」

 

そう、やさしく二人の頭を撫でていた。

 

「パパとママはいつも頑張ってるもん。いつもいつも、『諦めないで頑張ろう』って頑張ってるもん」

 

「桜が泣いてる時も、お歌歌って励ましてくれるもん」

 

「だから、ママとパパに出来ない事なんてないよぉ」

 

桜のような柔らかい笑顔が、そこにあった。

 

眺める者の心を癒す桜の花は、二人の心も癒していった。

 

「そうだっ!お歌歌おうよ!パパとママがいつも歌ってくれるお歌!」

 

「歌・・・・・。この村の・・・・伝説の歌・・・・」

 

「菊花様が・・・・子供の為に歌っていた、龍神様の歌・・・・」

 

澄乃と芽衣子がそれぞれ呟く。

 

「ぱぱっ、ままっ、一緒に歌おう?」

 

桜は息を吸って、歌を歌いだす。それは少女にとって日常の、人生の、すべてのためにある歌だった。

 

「やわらかーなーー、かぜがーーー?・・・・・あれ?」

 

歌詞をまだちゃんと覚え切れてない桜を伏目にくすりと笑い顔が戻ってくる澄乃。

 

そして、彼女も歌う。この呪われし土地の無垢で潔白なる歌を。

 

 

―柔らかなそよ風  この髪を揺らして  小さな涙をそっと  空に連れてく―

 

―そっと瞳閉じてごらん 楽しい夢見れるように 歌を聞かせてあげる―

 

 

それは愛しき人への愛を謳う歌。

 

 

―愛しい子よ誰よりも この胸にいつも抱きしめて 貴方をずっと守りたい―

 

―夕焼けの小道に ゆっくりと歩けば 小さな影背中で 揺れて重なる―

 

 

それは雪のように純白で、青空のように澄み渡っていて

 

 

―そっと瞳閉じてごらん 夢の続き見れるように 歌を聞かせてあげる―

 

―愛しい子よいつまでも あなたのそばで微笑むから このままゆっくりお休み―

 

 

夢のように儚くて、幸せで、現実のような温かさ。

 

 

―小さな手に幸せを 抱きしめて生まれてきた あなた見つめていたい―

 

―愛しい子よだれよりも 沢山の愛に包まれて お休み楽しい夢見て―

 

 

響く(謳う)響く(謳う)響く(謳う)

 

まるで、終わりを惜しむように。まだ夢の続きを知りたいがために。

 

だけど、夢はコレで終わり。

 

ココからは現実、彼方が、彼女達を救えなかったという、現実。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

歌から覚めた4人に沈黙が宿る。

 

「片づけを・・・・しよう・・・・」

 

一番最初に沈黙を破った芽衣子は立ち上がり、

 

 

 

 

 

瞬間、光柱が舞い降りた。

 

 

 

 

ゆり加護の中から、彼方たちのいる龍神湖へ。

 

春の暖かさが。

 

夏の眩しさが。

 

秋の静けさが。

 

冬の儚さが。

 

それらが全て一つとなって、空から光の梯子となり降りてきた。

 

「!?この光は・・・・・!!」

 

芽衣子は目を丸くした。過去にこの風景を見たもので、今は生きているのは彼女だけである。

 

ソレは、太古からの言い伝え。

 

ソレは、神の渡る道。

 

ソレは、龍神の降臨の証である。

 

光の梯子は、龍神湖の上に降りる。

 

その光を見た澄乃は、虚ろな顔をしてふらりふらりと龍神湖の方へと歩いていく。

 

「・・・!!澄乃!なにを・・・・・・!?」

 

彼方がそういった瞬間、澄乃の体が浮いた。

 

比喩ではなく、本当に体が地面からはなれ、光の方へと進んでいく。

 

「ままぁ・・・・・・」

 

桜が心配そうな顔で澄乃を見つめる。

 

ふわりと龍神湖の水面を渡り、光柱の中に向かう澄乃。

 

光の中に入った澄乃は、彼方達の方へ振り返り、にっこりと微笑んだ。

 

「大丈夫、お母さんは皆を呼ぶだけだから・・・」

 

そう言って、澄乃は光の中で祈るように手を組み合わせた。

 

すると、澄乃の体が光を帯び始める。

 

段々と、明るすぎて光柱の中が何も見えなくなる。

 

その光柱が、今度は彼方たちのいる沖のほうへ向かう。

 

少し、躊躇いながらも、彼方と芽衣子、そして桜は光の中に取り込まれる。

 

「彼方さん・・・・・」

 

光の中で、芽衣子は彼方に一言だけ呼びかける。彼方はそれだけで意味を理解し前へと歩を進める。

 

光の中へ足を踏み入れる。瞬間、目が眩んで彼方は目を閉じる。そして、次に目にしたのは何もない真っ白な空間だった。

 

『父上・・・・・』

 

不意に、彼方の頭上から―正確には空間そのものから―懐かしき娘の声が聞こえた。

 

「桜花・・・・そこにいるのか・・・?」

 

彼方はそっと頭上に向かって問いかける。が、その返答はなく、娘の声は淡々と優しい声で話し始めた。

 

『父上・・・父上は自分はみんなのおかげで生きているとゆうた』

 

『じゃが、それだけじゃなくて、皆も父上のおかげで幸せになれたのじゃ』

 

『だからこれは、父上へのぷれぜんと。みんなのために頑張った父上に、神様からのご褒美じゃ』

 

「それでは・・・・世界のねじれは完璧に治ったのか・・・・?」

 

芽衣子は心配そうだった顔を上げて、光に問いかけた。

 

『みんな元通りになったのじゃ。父上が、母上が、芽衣子が頑張ってくれたおかげで』

 

『父上、ぷれぜんとを受け取るのじゃ。父上の望みを、父上の幸せを』

 

「桜花・・・・俺の望みは・・・・」

 

彼方は、そこまで言って戸惑ってしまった。

 

彼方に望みは確かにある。しかし、ソレが自分で決めていいものか今だ答えが出てなかったのだ。

 

この望みを叶える事は、彼女達ぼ気持ちを裏切る事にならないだろうか?

 

世界のためとはいえ、そのために願うのは本当に彼女達の為なのだろうか?

 

「簡単でしょ、彼方ちゃん」

 

そこに助言をしたのはいつの間にか目の前にいた澄乃だった。

 

「私達の願いは、彼方ちゃんがよく知ってるでしょ?私達の願いはいつだって彼方ちゃんと一緒なんだよ」

 

そう言って、澄乃は聖母のような微笑で手を広げた。

 

その言葉は、彼方の無意味で単純で、終わりのない疑問をいとも容易く打ち砕いた。

 

彼方は思い出した。この幸せは、彼女達に必要だからこそ自分は決心したのだと。

 

「そう・・・だったな・・・・ありがとう澄乃」

 

そう言って澄乃と手をつないだ瞬間、光が急速に光度を増した。

 

眩しくて何も見えない中、惜しむような声が彼方の耳に消えるように聞こえた。

 

『父上の願い・・・確かに受け取った。この身を懸けて送る最初で最後のプレゼントじゃ・・・』

 

「桜花。また・・・会えるよな?俺たちは・・・・一緒だよな?」

 

涙ぐむ彼方の声に、桜花は優しく、澄んだ声で答えた。

 

 

 

                                                            

 

 

 

その言葉に、彼方は泣きそうになっていた顔に笑顔を貼り付けた。

 

 

そして、光は粉雪のように霧散した。

 

 

四人の周りには、さっきまで立っていた龍神湖のほとりの風景。

 

そのさっきまでの風景の中に、さっきまではいなかった二人の少女の姿があった。

 

「彼方さん・・・・・」

 

一人は、澄んだ蒼の短めの髪と深い琥珀色の瞳を持つ雪のような白肌の美女。

 

「彼方・・・・・」

 

一人は、伸ばし放題の碧の髪を左右に結び赤い綺麗な眼を持つ小柄な少女。

 

「アナタとの思い出、アナタの願い、アナタの夢・・・・」

 

「僕達が、全部持ってきたのだ。みんなを助けてくれた、救ってくれた、僕らの彼方のために」

 

「誓いました。あなたと一緒にいると」

 

「願ったのだ、また楽しく過ごそうって」

 

「「だから・・・・」」

 

 

「約束を、守りに来ました」

「約束を、守りに来たのだ」

 

 

二人の少女は、声をそろえて眩しい笑顔で彼方を見つめていた。

 

「しぐれ・・・・旭・・・・・・」

 

帰ってきた二人の名前を唱えるように呟く。

 

その言霊を聞いた二人は、走り出して彼方の胸の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「おかえり、しぐれ、旭」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、彼方さん」

「ただいまなのだ、彼方」

 

 

 

 

 

二人の満面の笑みを見た後、彼方は空を見上げて何処かにいる愛娘の言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『父上、わらわはいつでも父上の娘じゃ。親子はいつでも一緒なのじゃ』

 

 

 

 

 

 

 

 

彼方は思う。彼女らは幸せになる義務がある。

 

 

 

 

 

 

そして自分は、そんな彼女らを幸せにさせる義務がある。

 

 

 

 

 

 

だから彼方は、今此処にこの場所で、固く誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分とみんなの運命は、もう二度と不幸にさせないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな想いを余所に、小さな雪が空から一つ舞い降りてきた・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

FIN

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、ほんとの後書き

 

 

 

終わりました。えぇ、終わりましたとも。これにて、SNOW SS「名残雪、そして初雪」の閉幕です。

みなさま、いかがでしたか?ヤジや文句、感想などをBBSにて聞き入れようと思うのでどうぞお願いします。

名残雪は思い出の詰まった物。初雪は願いを叶えると言われています。

思い出と願いを胸に、彼らには幸せになって欲しいものです。はい。

いや〜しかし長かった。まさかここまで時間がかかるとは思っていなかった・・・・。

コレの最初の企画がしぐれにスクみずを着せるコトだったなんて誰にもいえないね!www

自分の成長の過程が全て反映されているので、見ていて懐かしく恥ずかしいですが、自分なりに納得のいく出来栄えになったと思います。

もし機会があれば、SNOWヒロイン集合編のSSも書こうと思ってるので、その時までしぐれのスクみずはオアズケです(笑

長い間ありがとうございます。次回のSSは出来るだけ早く取り掛かろうと思うのでそれまでのしばしのお別れ。

それでは、神の宿る白き雪の村、龍神村よ。永遠に・・・・。