次の瞬間、彼方たちの頭の中にフラッシュバックのように映像が流れた。いや、映像ではない。もっと鮮明な、そう、記憶。

 

 

 

 

 

 

『おかえりなしゃい、彼方ちゃん』

 

 

『ずっとね・・・・・戻ってきてくれる日を・・・・・・ま、待ってたんだよ』

 

 

『わたしは、彼方ちゃんと離れる瞬間が、一番怖くて・・・・・・・寂しいよ?』

 

 

『世界で一番・・・ね・・・・・彼方ちゃんが・・・』

 

 

『わたし、かなたちゃんのおヨメしゃん〜!』

 

 

 

『それでも・・・・それでも、ボクは彼方のそばにいたいのだっ』

 

 

『ずっと、そばにいてくれる?』

 

 

―彼方のそばにいられるのが、一番嬉しいのだ―』

 

 

『ぼくも、人間になれるのだ・・・・』

 

 

『ボク・・・ずっと・・・・・・いっしょに・・・いるのだ・・・』

 

 

 

『思い・・・・・・だしたの・・・・・・ですか?』

 

 

『私は、冷たい女ですから・・・』

 

 

『誰かを好きになったら、死ぬのですよね?』

 

 

『許して・・・・・くださるの・・・・・です・・・・か?』

 

 

『・・・・・・約束・・・です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュッ!という音とともに、澄乃と彼方の視界はもとの旅館の部屋に戻った。

 

「っぷは!はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

芽衣子はまるで100mを全力疾走した後のような顔をして床にへたれこんだ。

 

「芽衣子!大丈夫?」

 

澄乃は芽衣子のもとに駆け寄り、肩を抱いた。彼方は湯呑みに茶をいれ直し芽衣子に渡した。

 

「ほれ」

 

「ありがとう彼方さん。澄乃もありがとう。もう大丈夫だ。少し疲れただけさ」

 

茶を一口のみ芽衣子はふぅ、と息を整えた。

 

「芽衣子・・・。今の一体なんだったの?いきなりどばー!って映像が流れてきたよ」

 

芽衣子が落ち着いたのを見計らって澄乃がまず疑問に思ったことを口にした。

 

「ふむ。今のは『夢違いの術』といってな。まぁ、早い話が夢を見せることが出来るってわけだ。幽霊が『夢枕に立つ』ってのと同じようなものだと思え」

 

「さて、今ので記憶の大体が出てきたんじゃないか?元をたどれば、二人もこの記憶は持ってるはずなんだ」

 

「澄乃のこと。旭のこと。しぐれ様のこと。この3人プラス桜花ちゃん。これが今回の呪いの媒介に使われた少女たちだったんだよ」

 

芽衣子の言葉に彼方は疑問を持った。

 

「ちょっと待て芽衣子。『この記憶は持っている』って・・・・。もしコレが記憶で、現実にあったことだとしたら澄乃や旭はいなくなってるし、しぐれがココにいることになるじゃないか」

 

「そうだよね。私はココにいるし、しぐれさんのことも知らないし・・・・。現実にあったことを忘れているってこと?」

 

2人は気付いてないだろう。今、自分達はまるでその人達が知り合いのような雰囲気で知らない人を呼んでいたことを。

 

そんな矛盾に自分の術の効果を感じつつ、首をかしげている澄乃のほうを向き芽衣子は首を横に振った。

 

「いや、違うよ。この澄乃や彼方さんは別の世界の人さ」

 

「別の世界?異世界ってことか?」

 

「そう。異世界でも、限りなく近い世界である『平行世界』。今の記憶はその平行世界のものだ」

 

「うにゅ〜・・・。どういう意味?」

 

澄乃はどんどん出てくる難しい説明に頭がパンクしそうになっている。

 

「ん〜。そうだな。世界は同じつくりだけど、そこですごしている人々の運命はココとはちょっと違う世界。コレでわかるか?」

 

澄乃のために彼方は軽く噛み砕いて説明した。

 

「えっと、つまり違う運命の私たち。ってこと?」

 

「そう思ってくれていい。私はその平行世界を渡り飛んできたから全ての記憶があるのさ」

 

「記憶を見せる前に説明したな?呪いというのは思念や魔術を使い、媒介を触媒して現世に効果を出すものだと。」

 

「思念は龍神様と宮司の兄の二人の無念の想い。媒介は四人の少女。では最後に呪いの『効果』について説明しよう」

 

「その『効果』ってのは、現実に出た現象ってことだったよな?この村にある呪いなんていうほどの出来事は・・・・やっぱり、悲恋のことか?」

 

悲恋。それは自分だけのことではなくこの村にいるものも体験している人が多いのはこの村じゃ有名なことだ。

 

「悲恋・・・か。それは呪いの効果の一端が村の周りの人にもれただけだよ。実際はその呪いは彼方さんだけのものだ。」

 

芽衣子は暗い顔をしながら茶が入っている湯呑みに目を落とした。

 

「本当の呪いの効果は、運命の捩れ。とでも言えばいいかな?」

 

「「運命の捩れ?」」

 

澄乃と彼方は声をそろえて聞き返した。

 

「そう。更に言えば平行世界の捩れ。そうだな、この箸の袋で説明しよう」

 

そう言いながら芽衣子はテーブルに置いてあった割り箸の袋を手に取った。

 

「元来の運命の形をこのような輪の形だと思ってくれ」

 

芽衣子は袋の端と端を持ち、くっつけて輪の状態にした。

 

「人というのはこうやって運命の中を生きていくものだった。しかし、この呪いはそれをも犯す強烈なもの。それによって、運命は捻じ曲げられた」

 

さらに片方の端をひっくり返し又くっつける。

 

「あっ、それ知ってるよ。メビウスリングって言うんだよね?裏もなければ表もないっていう」

 

澄乃はこの話題でやっと理解出来るものが自分にも出てきたので少し嬉しそうに言った。

 

「よく知ってたな澄乃。そう、このメビウスリングのように捻じ曲がった運命が彼方さんに数々の悲恋の因果に巻き込んだ」

 

「そして、運命が捩れはそのまま平行世界の捩れに繋がる。その捩れによって、彼方さんは一つの悲恋の因果を断ち切るごとに違う平行世界の悲恋の因果に巻き込まれていったのさ」

 

「しかし、これまたにわかに信じがたい話だな・・・・」

 

彼方は信じていないわけではないが現状をうまく吸収できないで渋い顔をした。

 

「まぁ、そう思うのが普通だろう。コレを鵜呑みにする人は天然の澄乃と超お人好しの彼方さんぐらいさ。」

 

「けどまぁ、証拠とまではいかないが一応の裏付けはあるぞ」

 

芽衣子は言ってクククと笑った。

 

「?裏付けって?なんなの芽衣子」

 

「つぐみさん、小夜里さん、誠史郎の姿だよ」

 

「姿って・・・・三人とも人間に見えるけど?共通点と言えば若作りトコぐらいで・・・」

 

「それだよ彼方さん。あの三人の戸籍を調べてみたがどう考えても年不相応の顔と体。これは単なる若作りなだけじゃないんだよ」

 

「この三人は彼方さんとかかわりの深い人物達。それゆえに、平行世界の捩れの影響を少し受けてしまっている」

 

「捩れのせいで年のとり方が少し狂っちゃって、それでお母さんとつぐみさんと誠史郎さんは若く見えるってこと?」

 

「そういうことさ。コレは証拠にはならないがそれなりに筋が通った話だろ?」

 

「なるほど。確かに合点がいくな。実際外見だけじゃなくて中身も年不相応なのも納得がいく」

 

彼方は笑い飛ばしながら言った。

 

「まぁ、もともとの地がアレなんだろうがなぁ。そういうことにしておこう」

 

芽衣子は父親の異業を思い出しながら呟いた。

 

「うちのお母さんは『お若いですね』ってお客さんに言われるたびに奥ではしゃいだりしてるし・・・・」

 

澄乃も母親の異業っぷり話しはじめた。

 

「つぐみさんもひどいんだぜ。この前なんて『社に泥棒が入ったみたいだからみてきなさ〜い!』なんて言って一晩社で過ごさせられたんだぜ?結局泥棒なんていなかったし・・・・」

 

彼方も従姉弟の異業っぷりを話し始めた、が

 

「あぁ、スマン彼方さん。それは本当だ。その泥棒は私だよ」

 

これは正しかったらしい。

 

「なんですと?何やってんだお前!?」

 

彼方は呆れと怒りの入り混じった声で非難した。

 

「あぁ、コレをとりに行っていてな」

 

何処から出したのかドシャッっという音とともに風呂敷包みを芽衣子は取り出した。

 

「なになに?あんまんでも入ってるの?」

 

澄乃はわくわくしながら目の前の包みを開けた。

 

その中には―錆びた剣、それと何かの衣装が入っていた。

 

「芽衣子、これは・・・・?」

 

「今日の本件だよ。わざわざあんな長くてタルい話を用もなしにするわけがないだろう?」

 

ふっと皮肉そうに笑いながら芽衣子は袋の中身を手に取った。

 

「わぁ・・・・きれいな衣装。少し汚れてるけど、これ、随分来てないの?」

 

「まぁ、10年単位で洗濯をされてるだけだからな。実際には数百年ほど昔に着ていたものだ。」

 

「す、数百年って・・・・。すごい年代モノだな。ん?・・・・芽衣子コレってもしかして・・・・・」

 

芽衣子はああ、と頷いた。

 

「憶えてるようだな。そう、これは龍神様を降臨される儀式を行う際の衣装だよ。二人にはコレを着てその儀式に協力して欲しいんだ」

 

「うん、わかった!」

 

「了承早っ!そんなんでいいのかよ澄乃!?」

 

満面の笑みを浮かべながら即答した澄乃に彼方はびしっと普通に突っ込む。

 

「だって、こんなきれいな衣装結婚式以来だよ?私、きれいな衣装って大好きだモン!」

 

澄乃ははしゃぐように声を上げた。しかし、芽衣子はばつが悪そうな顔をしながら拒否した。

 

「あーすまない澄乃。この衣装は私が着る事になるんだ・・・・・。もう一つの男性用は彼方に。澄乃はまた別のことをしてもらうんだよ。いや、しかしそれはこれよりもっときれいな服を着てもらうつもりだよ」

 

途端にしぼんだ澄乃を芽衣子はすぐさま慰めた。

 

「おい、芽衣子。適当に言ってんじゃないんだろうな?それで着れなかったら澄乃が・・・・」

 

「大丈夫、本当のことだ・・・・。予定であることは否めないが」

 

「わーい!きれいな衣装〜!」

 

ぼそりと付け足した言葉を気にせず騒ぐ澄乃。

 

「しかし芽衣子、なんで今更その儀式を?龍神様に願い事でもあるのか?」

 

「そんな事、それこそ『今更』だよ。今回の儀式は龍神様に降臨して頂くためのものじゃない」

 

「えぅ?それじゃあ何をするためなの?」

 

はしゃいでた澄乃がテコテコと戻ってきて問う。

 

「そうだな、それの説明もしておこう。と、言うかそのためにあの説明をしたんだがな」

 

「さっき、運命の輪廻の話しをしただろう?呪いによって捩れ、彼方さんや澄乃によって断ち切られた。」

 

「ここが重要なんだ。兄上は呪いの輪廻を断ち切るだけしか伝えてなかったのだろう?しかし、それだけではだめなんだ」

 

「さっきも言ったように、運命とは輪廻、『輪』になっているんだ。断ち切って捩れはなくなった。それなら今度はそれを正常にくっつけなければいけない」

 

「それじゃあもし、芽衣子の言う今の『断ち切った』状態でこのまますごしたらどうなるんだ?」

 

彼方は真剣な顔で問い詰めた。

 

「世界の滅亡、とまではいかなくても、何らかの大惨事が起こることは十二分に考えられる」

 

「ただ捩れただけであれだけ雪が降ったりしてたんだもんね・・・」

 

澄乃はずっとこの村に住んでる者として感想を述べた。

 

「そういう事だな。だから呪いの根本の原因となった儀式を再度行い、運命の輪廻をつなげなくてはならないんだ」

 

「頼む、こんなことをできる人と頼める人なんて2人だけなんだ。どうか協力して欲しい」

 

そういって芽衣子は土下座した。プライドの高い芽衣子がこんなことをするなんて、と、彼方と澄乃は驚いた。

 

「大丈夫だよ芽衣子〜。私達が頑張るよ〜」

 

澄乃はほにゃと笑顔を浮かべいつものように言った。

 

「まっ、貸し一つってコトで手ぇうっておくさ」

 

彼方も笑顔で憎まれ口をたたいた。

 

「・・・ありがとう。それじゃ、早速だが準備をしよう。期限は明日だから今夜は猛練習だ」

 

「はぁ!?明日って・・・・鎮魂祭にはまだ一週間近くあるはずだぞ!」

 

「別に鎮魂祭にあわせてやるものではないだよ。本来は一週間前程に降臨していただいてたんだ。その日にちの方にあわせるってのが筋ってモンだろう」

 

「えぅ・・・。ま、間に合うかな〜?」

 

「間に合わせる」

 

困惑した澄乃に向かって芽衣子は断と言い切った。

 

「まぁ、儀式といっても簡単だ。彼方さんが祝詞を。私が舞いを。澄乃にいたっては座ってるだけでいいんだ。」

 

「ちょっと待て芽衣子。俺、祝詞なんてわからないぞ?一晩で憶えろってーのか?」

 

そりゃ無理だ、という顔をしながら彼方は芽衣子に問た。

 

「あぁ、無理だろうな。私は舞い担当だったから所々しか憶えてない」

 

「じゃ、どうするんだ?」

 

彼方は小さく首をかしげた。

 

「そのために、きちんと祝詞の巻物もあるさ。読みやすいようにフリカナをかいてある」

 

芽衣子は袖からスッっと巻物をだした。手に取ったらすぐにでも崩れてしまいそうなほどボロボロなものだった。

 

「なるほど、コレを見ながらやればいいんだな。って事は、後は儀式そのものの準備だけで終わりなのか」

 

「まぁ、そういうことだ。材料も私のほうで揃えてあるからな」

 

「なんだぁ、それなら今日中にでもやれば間に合うね♪」

 

「だな。んじゃ、善は急げってコトで、今すぐにでも始めようぜ」

 

「おいおい、彼方さんそんなに急いでも大変になるのは彼方さんだぞ」

 

ふぉっふぉっふぉと言うような笑い方で芽衣子がツッコむが、彼方の耳にはそんな言葉はもうどうだっていいことだ。

 

(まだ自分の役目は終わってないんだ)

 

そんな想いが彼方の心を駆り立てる。5人の少女たちを助けてあげるのは自分だと心のどこかで自負している。

 

「なら、なおさら急いでもいいだろ。俺は俺のためにもさっさとやりたいんだよ」

 

言うが早いが、彼方は立ち上がりお茶も片付けずに外に飛び出した。

 

「えぅ!彼方ちゃん私も行くよ〜!」

 

澄乃もトテトテと走って彼方の後を追って飛び出していった。

 

「あっ、おい!・・・・まったく、天然素材120%だな。二人とも」

 

しかし、これでいいんだと思う心が芽衣子の中にある。その心は自分の良心か、使命か、運命かはわからない。

 

それでも芽衣子は自分の行動に悔いも不安もなかった。

 

―なんだ、そんなもの」

 

二人の外に飛び出す時の笑顔でとうに忘れたものだ。と、心の中で呟いて芽衣子も2人の顔マネをしてみる。

 

そばにある鏡で見てみたがちょっとぎこちない笑い方になっていて思わずさらに苦笑した。

 

「・・・・・勝てんな。あの二人には」

 

芽衣子は立ち上がり、部屋を片付けてから出ようとして

 

「芽衣子ーーーーー!」

 

外からの声に気付き、障子を開けた。そこにはとっくのとうに外に出た澄乃と彼方が立っていた。

 

「そーいや聞き忘れたけど、どこで何を準備すればいいんだーーーー!?」

 

 

がんっ

 

 

と、音を立てて芽衣子はずっこけて柱に頭をぶつかった。つまり、二人とも外に出たのはいいものの何をすればいいかわからず待機状態だったのだ。

 

そんなオチとぶつけたせいで痛めた頭を抱えていると下から応答がきた。

 

「わ、芽衣子大丈夫〜?すごい音がしたよ〜?」

 

「おいおい、ウチを壊さないでくれよ」

 

能天気な本人たちを見つめ返し芽衣子は

 

「・・・・・勝てんな。あの二人には」

 

少し奇妙な不安に襲われた。

 

 

 

まだあとがきではない

 

 

 

 

やっと中編ですねぇ。さて、これからどんなことになるんでしょうか?それは書き手にもわかりません(ぇ

 

桜花「計画性の無い男じゃ」

 

いきなり桜花ちゃん登場。まぁ、いいでしょう。今回は出番ないですし。

 

当たり前です。自分ですら予測できなければ誰にも予測はされませんからw

 

桜花「・・・・・・まぁ、よいとしておこうかの。それはそうと無駄に長いのう、今回のSSは」

 

説明文豊富ですからね。芽衣子さんご苦労様です。謎解きはこれで一通り終わったと思うのでここからSSになる・・・・予定です。

 

桜花「しかし、予定は未定。なのであろう?」

 

・・・・・はいその通り。ってことで毎度同じく期待禁止で。でわ、そろそろ切り上げて残りはあとがきで。

 

ちなみに、桜花とシャモンの登場はここまで。あとがきには出てこない予定です。

 

しゃもん「にゃにゃっ!?Σ(・Д・)」

 

桜花「なにっ!?な、なぜじゃ!?」

 

いや、このあとがきの書き方って面倒なんで。

 

 

 

 
 
 
 

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