月明かり。獣も人間も、植物や空気さえも静まり返っている。

 

そこに存在するのは朧げな光を放つ月のみだ。

 

―しかし、木々に囲まれたところにある、社(やしろ)の物置。そこから

 

『どんがらがっしゃーん!』

 

と、静けさと一緒にこの神秘的な空間までブチ壊す様な音が響きわたった。

 

ブチ壊した犯人である少女は物置の数々の神具達のなだれによって埋まり、

 

「っぷはー!し、死ぬかと思った・・・・」

 

少女は海で溺れたかのような顔をして神具の山の中から出てきた。その手には、古い着物と巻物、さらには錆びた剣らしき物がある。

 

少女はその手に持った物を確認し一息ついてから神具達を片付けた、と言うより物置に押し込んだ。

 

少女は境内に戻る。途中に、剣についていた鈴から『チリ、チリ』と錆びた鈍い音が鳴った。

 

「これで全部のはずだ。今からなら急いで準備すれば十分間に合うはず・・・・・これで・・・・・」

 

空を見上げる。少女の目の中に朧げに光る月が映る。

 

「・・・・・・・・兄上・・・・・」

 

少女、橘 芽衣子の中の月は更に朧げになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名残雪、そして初雪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じりりりりりりり・・・・・・!』

 

「はい、旅館龍神天守閣です」

 

休日の朝。出雲彼方は眠い目をこすりながら電話をとった。

 

『ドキドキウハウハムッツリクイ・・・』

 

がちゃん

 

と電話をきる。本来はたたきつけて電話を切りたかったが大事な旅館の電話なので軽めにきった。備品は大切にしているのだ。

 

『じりりりりりりり・・・・・・!』

 

「はぁ・・・・・・・」

 

彼方は諦めのため息をついてもう1度電話を取る。

 

「はい、旅館龍神て」

 

『客人の電話を無言で切るとはどーゆー了見だコラ。えぇ?彼方さん?』

 

電話の向こうから、まるで仕返しのように言葉の途中で返答された。

 

「芽衣子・・・・朝っぱらから何事だ?コッチはせっかくの休日なんだぞ?客人でもないお前に文句を言われる筋合いはない」

 

『ほほう?私が診療所の仕事で電話してきた、と言ったら?』

 

「な、なに?そうなのか?すまない・・・・・」

 

『なに、謝る事はない。私の電話は私用のみだ』

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

もう、怒る気もしなくなったようだ。彼方は頭に手をついてさっきよりひどいため息を出した。

 

「・・・わかった。で、用件をさっさと言え」

 

『ふむ。では彼方さん。今日は休みだな?というかだから電話したのだが』

 

悪びれるような様子もなく芽衣子は話し出した。

 

『今から、旅館に行って話したいことがある。出来れば澄乃も一緒でさくらちゃんはいない方がいいのだが・・・』

 

「?・・・まぁいいけど。どうした改まって」

 

彼方は疑問を持った。いつもなら入ってくるのすら断りを入れてないのに今回はなぜかキチンとしている。

 

『なに、澄乃やさくらちゃんのことを言っておきたかったのでな。まぁ、詳しいことはそっちへついてから話す』

 

「おう、わかった。んじゃな」

 

『あいあい』

 

彼方は「がちゃん。」と電話を切り、早速澄乃を起こしに

 

「おっす」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

行こうとしてその場で数十cmほど飛び上がった。

 

「どうした彼方さん?何か世にも恐ろしい物でも出てきたのか?」

 

ニヤリと笑みを浮かべながらそこに立っているのは間違うことなく芽衣子。

 

彼方が驚くのも無理はない。まさか、5秒前までは電話をしていた相手が真後ろにいるとは思わなかっただろう。

 

「め〜い〜こ〜。テメ〜・・・・・(怒」

 

「わっはっはっは!さすが彼方さん。いい反応をしてくれる。しっかし、後ろからの電話の声に気付かないようではまだまだ未熟よのう」

 

仁王立ちで彼方を見下す芽衣子。手にはいつ買ったのか携帯電話が握られている。それを見て彼方は今日3度目のため息をついた。

 

「・・・・ったく、幽霊なんかよりよっぽど恐ろしいもん見ちまブホッ!」

 

次の瞬間、芽衣子の見事なまでの上段回し蹴りにより彼方はそのまま2mほど吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぅ〜・・・・彼方ちゃん。まだ痛む?」

 

「いや、大丈夫だよ。コレぐらいならどうってことないさ」

 

心配そうに顔をのぞく澄乃の頭を優しくなでる彼方。澄乃は「うにゅ〜・・・」と言う声を上げながらほわほわした顔になる。

 

「なに、彼方さんはコレぐらいじゃ死なないさ。安心しろ澄乃」

 

加害者は呑気に茶を飲みながら一息。

 

「それにしてもどうしたの芽衣子?龍神祭のお話なら昨日したばかりだよね?」

 

「まぁ、そうだな。今回も龍神祭の件だ。しかし、公事ではないほうのな」

 

「??・・・どうゆうことよだ芽衣子」

 

この村に伝わる伝統ある祭り。それが龍神祭である。後一週間ちょいあとの話で、すでに準備が始められている。

 

彼方も、もう何度か参加しているために龍神祭のことを知っているつもりである。しかし、芽衣子の話はどうやらその件とは少し違うように聞き取れた。

 

「さてと、聞くまでもないと思うが一応確認しておこう。・・・・・2人とも桜花のことは覚えてるな?」

 

「当たり前だよ!桜花ちゃんは私たちの子だよ。忘れるわけないもん!」

 

澄乃は「ばんっ!」とテーブルに手を着き頬を膨らまして怒っている。彼方も当然だ、と芽衣子に視線を返す。

 

「では、第二の質問。二人は本当の龍神の伝説を知っているか?」

 

「それって、芽衣子が前に言ってたお話のこと?聞いたことないよね、彼方ちゃん?」

 

「いや」

 

この質問では2人の答えが食い違った。

 

「俺は・・・・。聞いたことないが、知っている」

 

その顔には憂いがあった。彼方にとってこれは少しつらい話だった。

 

「やはり・・・・・見たんだな?彼方さん」

 

その表情から、芽衣子は真理を読み取った。

 

「ねぇ、どうゆうこと?彼方ちゃんは何を見たの?」

 

一人置いてけぼりの澄乃は2人を交互に見つめて答えを求めた。

 

「夢・・・・だな」

 

彼方は呟くように答える。

 

「彼方さん。ここからは私が話そう。・・・澄乃。これから話すことは現実にあった真実の伝説だ」

 

芽衣子は静かに語った。本当の龍神の伝説を。何百年も前の物語を。

 

 

 

 

二人の兄妹が行った、龍神様の儀式。

 

儀式が成功し、二人の龍神様が現れ、龍神祭は成功するかと思われた。

 

しかし、龍神様の一人と、宮司の兄が恋に落ちてしまった。そこから悲劇は始る。

 

祭りの当日、村は夜盗に襲われ壊滅状態。

 

辛くも逃げたが宮司と龍神様達は辛くも逃げたがそこからも苦しい日々の連続。

 

龍神様は子供を身篭り、そのせいで重い病に。ついには記憶もなくしてしまう。

 

つかの間の幸せ。記憶も元気も戻り、村に戻ろうとする一行。

 

しかし、夜盗に見つかり、追い詰められる。

 

そして・・・・宮司の愛した龍神様は子を身篭ったまま殺された。

 

夜盗たちを倒した後、その後を追うように宮司も自害をした・・・・・・。

 

 

 

 

 

「えぐっ、えぐっ、うぅ・・・・・」

 

澄乃は涙ぐみながら話を聞いた。

 

内容を知っていた彼方もこの話は何度聞いても慣れるものではなく、悲痛な顔をしている。

 

「・・・・・これが龍神伝説の真相だ。真実を知ってる者は少なく、また、語り継ぐにはあまりにも悲惨だった。故に伝説は捻じ曲げられたんだ」

 

芽衣子は飲み終えたお茶を静かに置き小さくため息をついた。

 

「芽衣子・・・・。何でお前はこんなに詳しいんだ?それになんでこの話を俺たちに・・・・・」

 

「まぁ、慌てるな彼方さん。実際話はココからだ」

 

芽衣子が凛とした表情になる。

 

「まずは、彼方さんの二つ目の質問に答えよう。何故この話をするか?それは、この話が二人にとって人事ではないからだ」

 

「それって、桜花ちゃんの・・・・・」

 

「いや、桜花ちゃんの事もそうだが、もっと深いところで二人にとっては関係してるんだ」

 

泣き止んだ澄乃の言葉を途中でさえぎる芽衣子。

 

「この龍神伝説に登場するのは全員で六人。正確には五人と一匹だな」

 

「宮司の兄妹、兄を白桜、妹を鳳仙という。竜神の姉妹、妹は菊花、姉はしぐれという。ウサギのあさひ。そして、白桜と菊花の子」

 

「名を、桜花という」

 

澄乃は息を呑んだ。空になった湯呑みが倒れたのにも何も反応がない。

 

「もちろんただ同名なだけじゃない。同一人物だ」

 

「ど・・・・どうゆうこと・・?だって桜花ちゃんは・・・・え?」

 

「桜花ちゃんは、この世に存在しなかった魂だった。桜花ちゃんの実態はこの世に存在したことなかったのだからな」

 

「現世に存在した桜花ちゃんの正体は・・・・・闇。桜花ちゃんは伝説の悲しい想い出そのものだったんだ。それがこの村に雪を降らしていた。それは二人も知っているだろう?」

 

「あぁ、桜花が消えていった時に空が開けるのを感じたよ。桜花の存在が一緒に消えてくのも・・・・なんとなく感じていた」

 

彼方はかすかに震えたままの澄乃の頭をなでながら答えた。

 

「そうか・・・・。さて、ここで二つ目の質問の簡潔な答えだ。二人はどのように関係しているのか。単刀直入に言おう」

 

「彼方さん、澄乃。お前たち二人は・・・・・愛し合った宮司と龍神様の生まれ変わりだ」

 

部屋が静まり返る。ただでさえ物音がなかったのに今度は更に完璧な無音になったかのように静かになった。

 

その沈黙を破ったのは彼方だった。

 

「なんとなく、な。そんな感じがした。俺の先祖様だと思ってたけどな」

 

「ばかたれ、子が生まれなかったのに子孫がいるわけないだろう」

 

芽衣子はずびしっと彼方のでこを突いた。

 

「二人の魂もまた、桜花ちゃんと同じように成仏しきれずに残っていたのさ。そして、桜花ちゃんを助けるために生まれ変わったんだ」

 

「まぁ、そうゆうわけで二人は最初から桜花ちゃんを助ける運命にあったってことさ。失敗するか成功するかは決まってなかったがな。桜花ちゃんを救ったのは彼方さんと澄乃の力によるものだよ」

 

澄乃のなにか言いたげな顔を察し、芽衣子は先にフォローした。澄乃はそれで少し安心したような顔に戻った。

 

「では次に、これから先の話のためにも1つ目の質問の答えについて。何で私がこんなに詳しいか?簡単なことだ。私は全てを見てきたんだ」

 

「全て見てきたってどうゆうこと?芽衣子は何百年も前のことをどうやって見たの?」

 

「どうやって。と聞かれたら、肉眼で見てきた。と言うしかないがな。さて、また少し話を変えよう。伝説の中のほかの登場人物を覚えているか?」

 

「えっと・・・確か宮司の妹と、龍神の姉、ウサギのあさひ。だったな」

 

芽衣子の問いかけに少し首をかしげながら答える彼方。

 

「そう。ウサギのあさひは封印されたためキャストから外れるがな。まぁ、それについては後々話そう」

 

「宮司の妹、鳳仙と龍神の姉、しぐれ。この者たちは二人が死んだ後でも、生き残ってしまった。つまり、この二人にはまだ続きの話がある」

 

「鳳仙には先視、軽い予知の力があった。鳳仙はいつか白桜の生まれ変わりの誰かさんが闇を払うことがわかったのさ。その話を姉の龍神様にした後、鳳仙はある頼みごとを言った」

 

「『龍神様。私に不老不死の力を下さい。いつの世にか現れる兄上の生まれ変わりに会って、一言言ってやりたいのです。』と」

 

「龍神様は承諾した。鳳仙に不老不死の力を与え、自らは人と関わることを恐れて山奥に隠れ住むことにした」

 

「鳳仙は生き続けた。『死』と同義語とさえ言われる不老不死の姿でな。兄の死だけでなく、自分の死すら乗り越えて生き続けた」

 

「時代は流れ、その時代に合わせて鳳仙は生きていった。そして今、鳳仙は別の名を名乗っている」

 

「まさか・・・・芽衣子、お前・・・・」

 

彼方は全てを察し、驚き目を見開いている。そんな彼方にかまわず、芽衣子は言葉を続けた。

 

「鳳仙の現在の名は、橘 芽衣子。この、私だ。」

 

「で、でもそんな・・・・・。芽衣子が・・・・・・そんなことが・・・・・。」

 

この芽衣子の言葉にショックの大きかった澄乃は動揺した。

 

「その気持ちもわかる。しかし、でなければ何故私が詳しいか説明がつかないこともわかってるんだろう?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

澄乃は黙り込んでうなだれてしまった。ずっと一緒にいた友達の正体はあまりにもインパクトが強すぎたのだ。

 

「私の正体なんてどうでもいいことさ。2人に知って欲しいのは、闇の正体のほうだ」

 

「だからそれは、龍神伝説の・・・・・。」

 

「それは根源の話だよ。『現れた闇』という、桜花ちゃんのように現世に影響が出てしまった闇という名の「呪い」の正体の話のことだ」

 

「そもそも呪いというのは、思念や魔術を使い、媒介を触媒して現世に効果を出すものだ」

 

「えっと・・・・彼方ちゃんわかる?」

 

難しい言葉であまり理解できなかった澄乃が彼方に助けを求める。

 

「だいたいは。つまり、呪いは誰かの想いがなにか中継を使ってこの世に現れる。ってことだな?」

 

「ふむ、大体あっている。そして今回の呪いの媒介には四人の少女たちが使われた」

 

「四人?桜花が一人として・・・・あと3人は?」

 

彼方の疑問に芽衣子はあごを手に乗せ、少し難しい顔をした。

 

「ふむ・・・・そうだな。それじゃ、そうだな。百聞は一見にしかずだ。これで私の正体の証明も出来るだろう」

 

芽衣子は持っていた湯呑みを置いた。

 

「二人とも、目をつぶっていてくれ。大丈夫だ。これといって何かするわけではない」

 

「うん、わかった」

 

「OK。これでいいのか?」

 

彼方と澄乃は目をつぶった。芽衣子は頷き、そして軽く腕まくりをする。

 

「よしそれじゃ始める」

 

南斗北斗三台玉女、左青龍避万兵、右白虎避不祥、前朱雀避口舌、後玄武避万鬼、前後輔翼、南斗北斗三台玉女、左青龍避万兵、右白虎避不祥、前朱雀避口舌、後玄武避万鬼、前後輔翼

 

芽衣子の声がまるで別物のように透き通った声になる。そして、彼方と澄乃の頭に手を置く

 

真夢着草木吉夢成宝王、急急如律令!

 

瞬間、閉じているはず視界が黒から白になり、そして・・・・・・・・渦のようなもの中に入っていった。

 

 

 

 

あとがきではないもの

 

 

 

ども、やっとSSを提出して安心してたら続きが進まないでテンパってる悲恋の吟遊詩人です

 

今回はまだあとがきではありません途中書きですねw   この後、中編、後編と続く予定です。

 

今回のSSは自分なりのSNOWについての謎解きをしてみました。どうでしょう?

 

別に押し付けるつもりは無いので「あぁ、こんな考えもあるんだな」程度に思っておいてください。

 

後々にレビューでの考察でもこの説を使う予定ですのでそのつもりで。

 

でわ、今回の自分なりの感想等はあとがきに書くので今回はここまで。次の中編でもお待ちしています。