「あ、はやてちゃん!やっほー!こっちだよ〜!!」
海鳴市臨海公園。そのほとりに二人の少女が立っていた。
一人は、茶色い髪のツインテールをした元気な女の子。
一人は、金髪のツインテールをした静かそうな女の子。
茶色い髪の女の子、高町 なのはは小走りで向かってくるもう一人の女の子に向かって大きく手を振る。
「おまたせぇ、皆。おくれてごめんな?」
手を振られ、関西弁の女の子は、手を振り返しつつ答えた。
「大丈夫、時間まではまだあるわ。・・・・シグナムも久しぶりね」
金髪の少女、フェイト・テスタロッサは関西弁の女の子の後ろにいた美女に声をかける。
「久しぶりだな。最近はバイトの都合上あまり皆にあえないことが多かったしな」
シグナムと呼ばれた女性は少しすまなそうに言う。
「えっ?シグナムさんバイトしてるの?」
なのはが驚いたように言うと、関西弁の少女、八神 はやてはふぅとため息をついて答える。
「そうなんや・・・私はべつにえぇってゆーてるのに、シグナムとシャマルがやるって言って聞かへんのや。管理局の仕事だってあるのに・・・」
「毎月いくらか振り込んでもらっているとはいえ、主はそれを食費と私らの生活費にほとんど使っているのです。ならば、主の負担を少しでも軽くするのが騎士の役目でしょう」
「・・・・・こんな調子や」
そういって、困ったような嬉しそうな顔をするはやて。
「まぁ、私達も学業が少しずつ忙しくなるし、彼女たちが好きならいいんじゃない?」
「あっ、そうだはやてちゃん!英語の宿題おわった!?分からない所があるんだけど・・・・」
「いや、私に聞いても無駄や・・・まだ半分も終わってあらへんよ・・・フェイトちゃんは?」
「えと、一応終わったけど・・・・」
ソレを聞いたはやてはすがりつくようにフェイトにお願いをする。
「後生や、フェイトちゃん!私に英語教えてぇな!!」
「うん、いいよ。じゃあ任務の後にうちに来る?」
「そうだね、フェイトちゃんちはひさしぶりかな。いつもうちの翠屋だったしね」
「主、夜遅くなるようなら連絡を・・・・」
『みんな、集まってるかい?』
不意に、空から会話を遮る声が響いた。
少女たちは特に不思議に思うことなくソレを聞いていた。
「うん、クロノくん。もう皆集まってるよ」
『わかった、それじゃあ今からアースラに転送するね』
そういうと、彼女たちの足元に光った模様の書いてある円、魔方陣が浮かび上がる。
そして、彼女たちの身体は公園内から姿を消した。
Lyrical/stay night
時空管理局次元飛行船、アースラ。
時空を渡るその船の中に、彼女たちは移動していた。
扉を開けると、データとにらめっこしていた高校生くらいの男の子が顔を上げ微笑む。
「やあ、みんな。きたんだね」
アースラの提督補佐、クロノ。彼女達の上司であり、先輩であり、そして友人である。
「ひさしぶり、クロノくん。リンディさんは?」
「提督は、地上本部で重要な会議があるらしく長い間留守にするそうだ。それまでは補佐の俺がここの提督さ」
「なんかそこに座ってるのも板についてるなぁ。さすがクロノ君やね」
はやてのほめ言葉にクロノは苦笑いを浮かべる。
さて、と一息ついてクロノはデータの大部分を保存して画面を消した。
「色々と話す事はあるけど、とりあえず最初に皆が気にしてるデバイスの件から話そうか」
用意されていた椅子に腰をかける3人の少女。シグナムは後ろの壁に寄りかかって立っていた。
「皆のデバイスのメンテナンスは終わったよ。夜天の書もシュベルトクロイツも、コレといって不安定な所はないから安心だな」
そういって、引き出しから赤い宝石、金のバッジ、本と銀の十字架のようなものをそれぞれなのは、フェイト、はやてに渡す。
少女たちは笑みを作りながらそれぞれのデバイズを受け取る。
「レイジングハート、おつかれさま」
『Thank you my master(ありがとうございます。マスター)』
「おかえり、バルディッシュ」
『I'm back(ただいま戻りました)』
「頑張ったなぁ、リィンフォース」
『alles System wurde sicher vervollstandigt(すべて安全に完了しました)』
それぞれのデバイスに声をかける少女たち。
「さて、次の話に移ろう。デバイスを受けとって早々だが、仕事が来たんだ」
復帰早々にはちょっと厳しいかもしれないけど、など呟く。
「今回の仕事は、あるロストロギアの発見と、ソレによる影響からの保護が中心だ」
そういって、壁のモニターに画像を映し出すクロノ。
それは、見た目はおもちゃの銃のようなモノだった。
「銃?・・・・でもカートリッジが無いところを見ると、魔力によって弾を生成する銃・・・ってとこ?」
モニターに移る画像をじっと見つめつつ推理をするフェイト。その言葉にクロノは満足そうに頷く。
「そうだ。本人の魔力を込めることで一定の魔力砲を発射するロストロギア。それを見つけるのが今回のメインの仕事。ランクにすると・・・まぁ、2級指定のロストロギアなんだがな。問題が他にある」
「問題?」
「それについては僕から説明するよ」
首をかしげたなのはの後ろから、声が聞こえる。
そこには、彼女のよく知る男の子がいた。めがねをかけた細身な体、理知的な顔立ちの少年である。
「ユーノ君!久しぶりだね」
「あぁ、久しぶりなのは。元気そうだね。最近は書庫にこもりっぱなしだったから全然会いにいけなかったし・・・」
「こらこら、私情は後にしてくれないかいフェレット君?」
ほのぼのトークを始めようとする二人を見てクロノは軽く咎める。
「ぐっ・・・その呼び方いい加減やめろよなちくしょう・・・・」
「はいはい、クロノ君もユーノ君も抑えて抑えて。それで、実際の所なにが問題なん?」
「・・・OK,説明するよ。まず、このロストロギアの名前だけど、正式名『空間歪曲砲ギンヌンガガップ』発射した地点の軌道上にある空間を歪曲させてあらゆるものを消滅させる魔法銃。理論上では、アルカンシェルを撃つことが可能な魔法銃だ」
「「「アルカンシェルを!?」」」
ユーノの言葉に少女三人は驚きの声を上げる。なぜなら彼女はアルカンシェルの威力を知っているからだ。
アルカンシェル、それは発動地点より100km近い距離の空間を歪曲させ、反応消滅を起こさせる魔導砲。
そんなものが撃てる銃など危険極まりない。少女たちは驚き、不安そうな顔になる。
ソレを見て、ユーノは慌てたように付け足しする。
「あくまで理論上だよ。この銃は魔力の消費が激しくて、アルカンシェル並の威力を出すのならなのは100人分以上の魔力が必要になる。だから、普通の魔導師では撃つどころか起動させることすらできない。それに仮に魔力だけあったとしても、空間操作系の魔法にかなり長けてないと暴発して自分もまき沿いを食ってしまうから、誰も使えないんだ。それ故に2級指定なんだよ」
「なんだぁ、もう驚かさないでよユーノ君・・・・」
「あはは、ゴメンよ。でも、さっきも言ったように他に問題があってね」
ほっとため息をついたなのはだが、問題という言葉にまた不安を覚える。
「それで、何が問題なんなのだ?早く説明してくれないか」
壁に寄りかかって黙っていたシグナムが声を上げた。その言葉に、ユーノは手に持っていた資料を読み上げる。
「まず、このロストロギアができた世界では、二つの大きな国があったんだ。ギル国とレヴィ国。二つの国は対立しあってその世界全てを巻き込んだ魔法戦争が始まった。その中で生み出されたのがこの銃なんだ」
「当然、どちらの国もその銃を手に入れようとして躍起になった。どちらも国ぐるみで動いてるから魔力も知識もその銃を使えば簡単に滅ぼせるほどの力があったからね。そしてお互いに、その銃を奪い取る為だけの魔獣を国を挙げて作り上げたんだ。」
そういうと、クロノは新しい画像をモニターに映す。
そこには白い寅と、青く染まった竜の絵があった。
「白い寅の方がレヴィ国、青い竜の方がギル国の魔獣。この魔獣による戦闘で、戦争はさらに激化。結局、自らの手で彼らは自分たちの世界を滅ぼしてしまった。この、魔獣たちと銃を残してね」
「高度成長した国が戦争用に作った兵器と魔獣。それが野に解き放たれてしまった・・・・」
「つまり今回の私達の仕事は、その魔獣による被害を抑えつつ、ロストロギアを封印ないし破壊しろ、という事か」
シグナムは今までの説明を簡潔にまとめてたが、クロノはそれだけじゃないと首を振った。
「実はすでに、このロストロギアの魔獣については銃を餌に『二体を相打ちさせる』というプランがあって実行したのだが・・・・何故か突然、銃が消滅し2体揃って戦いをやめお互いに色んな世界を転移し始めた・・・・」
「「「!?」」」
3人は言葉も無く驚いていた。
「魔獣たちは、『敵を倒す』と『銃を手に入れる』と言うのが基本の行動目的だ。そのシステムに沿うと、こんな行動もするだろうね、『銃を手にした者を倒す』って」
クロノの言葉に、そうか、と呟くフェイト。
「誰かが銃を手に入れてしまったんだ・・・。意図的か偶然かはわからないけど・・・・」
「おそらく偶然だろう・・・・・。魔獣たちは分裂して、銃がある世界が見つかるまでワープし続け、銃がある世界に着くと破壊を繰り返しつつ探索をする・・・。もちろん、ソレを邪魔するものは容赦なく襲い掛かるようプログラムされている」
「その銃がある世界って・・・・」
なのはが不安そうに聞くと、クロノはふうとため息をついて答えた
「まだ、特定は出来てないが・・・・その銃がある世界は、おそらく戦場となる」
「第二の世界崩壊・・・・そうなったら犠牲なんてレベルじゃない。すべてが無に還る」
クロノの言葉を継いで答えるユーノ。
今になって、4人は事の重大さを理解していた。
しかし、彼女等の災難はまだ続く。
後日、銃のある世界がどこにあるのか知った時、彼女達は・・・・・・・・